南山舎株式会社
No.369 月刊やいま2025年8月号
No.369 月刊やいま2025年8月号
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台湾さがりの歌
与那国島の記憶遺産
かつて、与那国島には「台湾さがり」という言葉がありました。日本が台湾を統治していたころ、すぐ隣にある与那国島からは台湾にわたる人が多く、台湾で働いたり、家庭を持ったりすることがあったのです。このようにして台湾を経験したのち、島に帰ってきたり、一時帰郷したりした人を指す言葉が「台湾さがり」です。
今ではほとんど使われなくなった「台湾さがり」という言葉ですが、当時のはやり歌「ストトン節」に独特の詞を付けた与那国島ならではの替え歌のなかに、「台湾さがり」の姿はかろうじて残されていました。
“台湾さがり〟はだめですよ/時計も持たずに鎖提げ……と歌われるこの替え歌に、決まった題名はありませんが、今回の特集では「台湾さがりの歌(与那国島ストトン節)」と呼びたいと思います。略して「台湾さがりの歌」です。「台湾さがりの歌」は、与那国島の人たちがお隣の台湾と深くかかわってきた「海続き」の関係を伝えています。
私はこれまで「台湾さがり」の替え歌を3人の方からうかがっています。歌詞がそれぞれ違っていますが、それは何かの誤りということではありません。台湾をめぐる経験が口伝えで広がり、意識するともなしに引き継がれてきた証だといっていいでしょう。
台湾との間で培われてきた「海続き」の関係は、その体験が生の言葉で語られるチャンスはいよいよ少なくなり、記憶は風化しつつあります。折に触れて振り返らないと、消え去っていくのではないかとさえ思えます。「台湾さがりの歌」の世界に分け入り、この「歌の記憶遺産」に詠み込まれた意味を読み解いていくことは、かつての島の歩みに対するイメージを膨らませ、身近なところに引き寄せるためのステップになるかもしれません。
特集/松田 良孝
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