この曲の萌芽は2000年にさかのぼる。長年住んだ東京を離れ、帰郷していた年だった。ある朝、登校する子どもたちのそばを数匹のオオゴマダラが旋回するように飛んでいく姿を目にした。「東京にいた頃はオオゴマダラを知らなかった」と田本さん。その光景に心が奪われ、「曲をつくろう」という思いが自然に湧き上がった。
「オオゴマダラが飛ぶさまは、他の蝶とはまるで違う。ふんわりと優雅に舞い、穏やかで優しい気持ちにさせてくれる」と田本さんは語る。
その後、修正や加筆などを重ね、2009年に現在の形になり、3月に八重山戦争マラリア遺族会(唐眞盛充会長)が中心となり、CD付き絵本『オオゴマダラのおつかい』(南山舎)が制作・刊行された。刊行後は、「市内の園・小学校に配布してほしい。オオゴマダラとの会話を通して、子どもたちが平和を愛し、思いやりに満ちた優しい人に育ってほしい」と市教育委員会に80冊を寄贈した。
田本さんは先の大戦で兄を沖縄戦で、母親と姉、妹をマラリアで亡くしている。幼少期には内向的な子どもだったが、父親が琉球古典音楽野村流(歌三線・舞踊)の指導者で、自宅教室には常に人が集いにぎやかだった。その環境の影響もあり、田本さんは幼い頃から歌うことが好きだった。後に音楽の道を志し、地元の高校から東京音楽大学に進み、卒業後は都内の高校で音楽講師として37年間勤務し、64歳で石垣島に戻った。
帰郷後は、八重山戦争マラリア遺族会に参加。戦争マラリアの記憶を「歌」で継承し、平和を語り継ぐ活動を続けている。地域の音楽文化活動やイベントにも積極的に参加し、「歌を通して平和を考える」ことをライフワークとしている。
田本 徹
声楽家。1937年生。88歳。石垣市平得出身。二期会オペラ研究科合格。東京音楽大学声楽科卒業。東京都公立学校音楽講師(1963〜1999年)。タモト音楽教室主宰。八重山戦争マラリア遺族会顧問。