怖かった話をします。
沖縄本島の友人の知り合いが営んでいる居酒屋に行ったときの話です。店主は四十代くらいで、初対面の僕にも料理や飲み物をサービスしてくれるとても優しい人でした。
楽しく過ごした帰りに、友達に「あのおじーいい人だなー」というと、「誰のことよ?」と伝わりません。
「お前の知り合いさー。お店のおじーよ」と返すと、友人は「は?〇〇さんのことか? まだおじーって歳じゃないだろ! お前親切にしてくれた人にそれはないよ。失礼すぎんか」と何故か怒り始めました。
僕は、「は! いきなり何を怒ってるばこいつよ!」と思いつつも、このままでは、この話をきっかけに僕の日頃の行いや、性格なんかまで批判し始めそうな勢いだったので、「あの人はもうおじーだし、なんなら俺もおじーだし、お前もすでにおじーだろ!」と言い返したいところをグッと堪え、「あ、そういえばエンダーのポテトってじゃがいもじゃないらしいどー」と話題を気まずくならない方に変えつつ、モヤモヤしながら家に帰りました。
沖縄本島の人がここまでの話を聞くと、友達と同じように、私に対して失礼な印象を抱く人が多いでしょう。しかし、石垣島の人ならそうではないはずです。
そもそも「おじー・おばー」は琉球語にはなく、全国共通語から派生したタイプの沖縄方言です。
沖縄の全体で使われている言葉ですが、少し調べてみると沖縄本島でのそれは「おじいちゃん・おばあちゃん」のみを指すことがわかりました。
石垣では甥っ子や姪っ子ができた時点で「おじー・おばー」と呼ばれることも多く、「おじさん・おばさん」のことも「〇〇おじー・〇〇おばー」と呼んだりしますよね。
同じ言葉でも微妙に意味が違っていて起きた誤解だと気づかされた出来事でした。
PROFILE
大竹芳典
おおたけ・よしのり/1995年、石垣市生まれ。八重山高等学校を卒業し、石垣島イーグル観光にて就職。八重山のガイドを通して島人の宝に気づく。その後、沖縄国際大学にて琉球文化を学びながら、国語の教員免許を取得。現在は本島北部にて教員として活躍中。